
遺産分割とは
相続人が複数いる場合、相続した財産は相続人同士での共有となります。
例えば、土地建物を3人の相続人が相続した場合、各人が3分の1の持分を有するものの、その持分の面積を自由に利用できるわけではなく、3人で土地建物の利用方法を決め、3分の1の限りで利益(賃料等)を得ることができるに過ぎません。しかし、これでは相続のたびに不動産の持分が細分化されてしまいますし、現にその建物に住んでいる相続人はとても不安定な状態に置かれることになります。
そこで、民法では遺言や法定相続分にかかわらず相続人同士の間で相続財産の分配方法を決めることが認められており、これを遺産分割といいます。上記の例では、実際にその土地建物に住んでいる相続人が土地建物を単独で相続し、他の相続人は他の遺産を相続し、足りない分は金銭で調整するといった取り決めをすることもできます。相続人間で協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停、審判によって分割方法を定めることができます。
遺産分割は、相続人同士の間に複雑な利害関係を生じさせることもあり、問題解決には弁護士に相談することをお勧めします。
遺言書の有無により相続手続きの流れは異なる

遺言書の内容により遺産分割
遺言書がある場合、亡くなられた方の意思を尊重して遺言書の内容に従い遺産分割を行います。
遺言書の内容は、法律で定められた分割割合で相続する法定相続よりも優先されます。
もし亡くなられた方の自筆の遺言書が見つかった場合、むやみの開封せず、家庭裁判所で検認の手続きを行うようにしてください。
遺言書を見つけた際の対応
亡くなられた方の遺産整理をしていたら、思いがけない場所から遺言書が出てくることがあります。
法律では「遺言書を勝手に開封してはいけない」という決まりになっていることをご存知でしょうか。ほとんどの方の多くは、一生のうちで遺言書を見る機会は多くなく、この法律を知らない方がほとんどだと思います。
- 見つけた遺言書は絶対に開けてはならない
- 遺言書を勝手に開けることは法律違反です。
遺言書は、「家庭裁判所において相続人の立会いの下で開封しなければならない」と法律で定められています。これは、亡くなった方の遺言書を生前から預かって保管していた場合でも同じです。もし、これに違反(開封)した場合には、5万円以下の過料(罰金)が課せられることもあります。
- 遺言書を見つけたら家庭裁判所で検認手続き
- 遺言書を家庭裁判所で開封することを「検認」といいます。
検認が必要とされている理由は、遺言書自体が本物かどうか、誰かの都合のいいように勝手に書き換えられていないか、などを確かめなければなりません。
- 遺言書の開封には公平性が必要
- 遺言書の開封には客観性や公正性が求められるため、その開封は家庭裁判所で相続人全員の立会いの中で行われるもの、と法律で定められています。
- 「検認の制度」
- 裁判所のホームページに記載のある「検認の制度」を確認しましょう。
相続人全員の合意で遺言書と異なる遺産分割ができる
遺言書の内容に納得できない相続人がいる場合は、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議により分割することができます。
遺言書を作成した時点から財産価値(株価・預金残高など)が変わっている場合なども、遺産分割協議に切り替えることを検討するのもよいかと思います。
最低限保障された相続分(遺留分)より少ないときは取り戻せる
遺留分とは、亡くなられた方のご兄弟以外に認められた最低限相続できる財産の割合のことです。
たとえば「全財産を長男に相続させる」という内容の遺言書が見つかったとき、遺留分を侵害された相続人は、遺産を多く取得した相続人へ遺留分の請求ができます。
遺言書がないときは「遺産分割協議」をおこなう
遺言書がないときは、相続人全員が参加して遺産分割協議を行い、誰がどの財産をどれだけ引き継ぐのか遺産の分け方を決めます。
遺産分割協議は相続人全員の合意があれば、法定相続分とは異なる割合で遺産分割することができます。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、亡くなられた方の相続財産の分割方法について相続人全員で話し合い決めることです。
遺産分割協議の成立には、必ず相続人全員の同意が必要です。遺産分割協議は、遺言書があればそれに従い遺産分割を行いますが、遺言書が無いあるいは遺言書の内容とは異なる内容で分割する場合に必要となります。
遺産分割協議の進め方
開始する時期や、完了するまでのステップをご紹介します。
期限はないが早めに行うこと
遺産分割協議にはいつまでに行わなくてはいけないという期限は決まっていません。しかし、亡くなられてから3か月後には始めたほうが良いと考えます。
相続税の申告期限は亡くなられてから10ヶ月以内、もし相続税の申告が必要な場合には、誰がどの財産を引き継ぐのかといったことが、申告内容に大きく影響してくるので早めに遺産分割協議をおこない、成立させる必要があります。
遺産分割協議完了までの5つのステップ
遺産分割協議の開始から完了まで
- 遺言書の調査
公正証書遺言であればお近くの公証役場、自筆証書遺言の場合はご自宅や、法務局に保管されている場合があります。 - 相続人の調査、確定
相続人の調査は配偶者と第一順位のご子息、第二順位のご両親(祖父母)、第三順位のご兄弟(兄弟姉妹)と、亡くなられた方の出生からご逝去までの繋がったすべての戸籍(除籍)謄本を各役所から取り寄せ、相続人を確定します。 - 相続財産の調査・把握
亡くなられた方の財産を全て調べます。預貯金や不動産などのプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も確認します。 - 遺産分割協議を始める
相続人の数や相続財産の内容によっては、全員の合意が得られない可能性があるため、四十九日を過ぎたころを目安に始めます。 - 遺産分割協議成立・完了
相続人全員の同意が得られれば遺産分割協議は成立し、完了となります。
遺産分割協議を円滑に進めるために解決するべきこと
- 相続人の連絡先が分からない
戸籍の附票を取得すると現住所を確認することができます。(保存期限5年)確認出来たら、手紙などで連絡を取ります。 - 相続人が未成年
相続人が未成年の場合、相続においては親が代理人を務めることができません(利益相反行為)。未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所へ特別代理人を立ててもらうか、相続人以外の立場の人(祖父母など)が特別代理人として遺産分割協議に参加します。 - 相続人が相続放棄をした
相続人のいずれかが相続放棄をした場合には、相続人でないと扱う為、遺産分割協議には参加しません。 - 相続人に認知症の方がいる
相続人の中に、意思能力が不十分(認知症、知的障害等)で、遺産分割協議に参加が困難と判断される場合、家庭裁判所に後見開始、及び後見人選任の申し立てを行い、成年後見人を決めます。成年後見人が代理人として遺産分割協議に参加します。後見人が決まるまで、数か月から1年近く時間を要する場合があります。 - 遺産分割協議が一向にまとまらない
相続人の関係性によっては、全く遺産分割協議に応じないといった事態や、平等性や貢献度などを含めて誰かが主張を続けて譲らないことでまとまらないこともあります。話し合いに全く応じてもらえないような場合や結論に至らない場合には、裁判に進むことになります。しかし、調停や審判は弁護士の費用と時間をかけたうえに、法定相続分でわけることに落ち着くケースが多いことから、可能な限り話し合いで解決することが望ましいです。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が整ったら、その内容をまとめて書面にします。この書面を遺産分割協議書と言います。
遺産分割協議書は法的にも有効なもので、分割内容に関し相続人全員が納得していることを証明する書類です。作成しておくことで、後々の相続トラブルを防ぐことにもなります。
相続手続きに遺産分割協議書は必要
遺産分割協議書は、相続手続きの内容により提出を求められます。相続税の申告が不要であれば、特に決められた期限はありませんが、相続手続きを速やかに終わらせるためには遺産分割協議書も早めに作成しておくことが望ましい。
<遺産分割協議書が必要な手続きと提出先>
手続きの内容 | 提出先 | 提出期限の目安 |
不動産の相続登記 | 法務局 | 期限はないが相続する年の年内が望ましい |
預貯金の相続手続き | 各金融機関 | 期限はないが口座凍結されるので早めが望ましい |
相続税の申告 | 税務署 | 相続発生の翌日から10ヶ月以内 |
自動車の名義変更 | 陸運局 | 遅くとも次の車検まで、早めが望ましい |
株など有価証券の相続手続き | 各証券会社 | 期限はないが売却するタイミングを見計らう |
相続人が遠方にいる場合は複数作成することも可能
遺産分割協議書は、全員が同意したと証明するために署名、捺印が必要です。相続人の人数が多かったり、それぞれ遠方に住んでいる等の理由で速やかに用意することが難しい場合には複数作成して個別に署名、捺印をしてもらうこと。
一部の財産のみの遺産分割協議書の作成も可能
住んでいた不動産の名義だけ、もしくは 車だけといった一部の財産だけ分割協議書を作成することも可能です。
税金の問題もありますので、所有権のある財産は、出来るだけ早めに分割協議を行い、名義変更をすることをお勧めします。
遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書の書き方には、法律で義務付けられた書式などはありません。自筆やパソコンで作成するなども自由です。相続財産を正確に記載して、「相続人の誰が、どの財産を、どのように引き継ぐのか」を明確に示されている事が重要です。更に、記載内容に相続人全員が同意していることを証明する直筆の署名と実印の押印が必要です。